「七瀬ふたたび」について

「七瀬ふたたび」について

日本を代表するSF小説家・筒井康隆が描く「七瀬ふたたび」は、1972年10月から1974年10月にかけて「小説新潮」に連作の形で発表された作品です。「邂逅」「邪悪の視線」「七瀬 時をのぼる」「ヘニーデ姫」「七瀬 森を走る」の5編からなっています。読心能力を持つ火田七瀬の様々な超能力を持つ仲間との交流や、敵対者からの逃亡を描いたSF小説で、「家族八景」「エディプスの恋人」と併せて「七瀬三部作」の一つとなっています。この作品で筒井は第7回星雲賞を受賞しました。「七瀬三部作」の中でもこの「七瀬ふたたび」は人気が高く、筒井の代表作「時をかける少女」と同じく何度もドラマ化、映画化されている作品となっています。

ストーリー

人の心を読む能力を持つ20歳の火田七瀬は、超能力者であることを悟られることを恐れ、家政婦の仕事をやめて母の実家へと帰ることにしました。その途中、夜行列車内で同じく人の心を読める能力をもつ幼い少年ノリオと出会い、さらに予知能力を持つ青年恒夫に出会います。恒夫の預言で、列車が事故に会うことを知った七瀬たちは、途中の駅で下車し事なきを得ます。列車事故から1年後、七瀬はアパートを借りてノリオと二人、人目を忍んだ生活をするようになります。高級バーでホステスとして働く中、バーのバーテンダーだった念動力を持つ黒人青年ヘンリーと行動を共にするようになり、ホステス業で稼いだ金で北海道の石狩市に土地と隠れ家を購入します。都会で多くの人と接する危険のあるホステスは危険だと判断し、ホステスを辞め、北海道の隠れ家を拠点にマカオのカジノで超能力を使って生活費を稼ぐようになりました。しかし、カジノでの勝ちっぷりから超能力者であることがバレてしまい、超能力者を抹殺しようと考えている集団に命を狙われるようになってしまいます。七瀬は仲間たちと協力し、敵の魔の手から逃れようと奮闘しますが・・・。

登場人物

火田七瀬(ひたななせ)
人の心を読む力を持つ超能力者(テレパス)。美貌の持ち主。家政婦の仕事をしていましたが、自身の成熟した体が男性たちの欲望の対象になりつつあることに危険を感じ、母の実家へ帰ることを決意します。途中の列車でノリオと出会い、高級バーを転々としながら二人で暮らす生活を送ります。ホステス生活をする中でヘンリーと出会い、北海道に隠れ家を買って3人で暮らすようになりますが、超能力を使ってカジノで生活費を稼いだことから超能力者抹殺集団にその存在を知られてしまいました。
ノリオ
七瀬と同じく人の心を読む力を持つ少年。1話では3歳、最終話では5歳になっています。4歳で既に10歳程度の知能を持つ頭のいい少年です。母親を幼少期に亡くし、継母が彼の面倒を見ていましたが、気味悪がられて可愛がってもらえませんでした。七瀬と出会った列車が転覆事故を起こすことがきっかけで、七瀬たちと行動を共にするようになりました。
岩淵恒夫(いわぶちつねお)
未来を予知する能力を持つイラストレーターの青年。最終話では24歳でした。長身で顔は面長、目が大きくやや道化た印象があります。七瀬に好意を寄せており、電話で危機を警告したり身を守るように拳銃を渡したりします。初対面時に七瀬に心を読まれたことを恥じており、七瀬に近寄ることが出来ずに再会できませんでした。
漁藤子(すなどりふじこ)
時間を移動できる能力を持つ女性です。大柄でやや肥満ぎみですが、色白でフランス映画の女優のような美人です。ノリオが4歳の時に17歳の女子高生でしたが、時間遡行をして実際には20年以上を生きています。実父を亡くして、北海道で牧場経営をする叔父に引き取られるため北海道へ行くフェリー上で七瀬たちと出会いました。
ヘンリー
念力を使うことのできる黒人の青年です。2メートル近い長身とハンサムな外見をしています。七瀬がホステスとして働いている高級バーでバーテンダーをしていました。その念力は車を持ち上げることも出来ますが、強力な念力を使った後は激しく衰弱します。自分の意志では念力を使うことが出来ず、父親の命令で使っていました。父を亡くした後に、自分に命令できる上位自我を求めて来日します。七瀬と出会い、七瀬の讃美者、崇拝者、召使であることを自認し、七瀬の命令で念力を使うようになります。
真弓瑠璃(まゆみるり)
マカオの地下カジノで七瀬と知り合った女性です。超能力は持っていません。実業家の娘で育ちがよく色白でグラマーですが男好きです。膨大な精神エネルギーでとりとめのない思考をすることから七瀬は心の中でヘニーデ姫というあだ名をつけています。カジノで有り金をなくして七瀬と行動を共にして帰国します。超能力者を抹殺しようとする暗殺者から七瀬とともに追われてしまいます。
西尾
28歳の商事会社社長で、七瀬が勤務する高級バー「ゼウス」の常連客です。実は透視能力を持っていますが、一般の人々を見下して自らの超能力も悪用することを厭わず、拳銃や麻薬も所持しています。バーでのダイヤモンド紛失事件から、七瀬と対決することになりました。

筒井康隆作家生活50周年記念映画

「七瀬ふたたび」はたびたびドラマ化されていますが、映画化されたのは2010年が初めての事でした。「筒井康隆作家生活50周年記念映画」と題し、原作に忠実に描くことを重視した映画化作品となっています。脚本自体は映画化の10年前には完成していたそうですが、七瀬役のキャスティングが難航し、撮影までには時間を要しました。その七瀬役には原作の印象に近いクールビューティーが買われて、「シルク」の芦名星が抜擢されました。原作者の筒井康隆は、「もっとも七瀬らしい七瀬」と彼女を評しています。監督は「東京少女」や「四谷怪談」の小中和哉が務めました。原作の連載が開始された1972年との時代背景の違いを理由に、結末は大きく異なっているのが見所の一つです。

キャスト

  • 火田七瀬・・・芦名星
  • 漁藤子・・・佐藤江梨子
  • 岩淵了(原作の岩淵恒夫)・・・田中圭
  • 真弓瑠璃・・・前田愛
  • ヘンリー・フリーマン・・・ダンテ・カーヴァー
  • 山沢ノリオ・・・今井悠貴
  • 景浦(能力者の敵対者)・・・河原雅彦
  • 山木義男(老刑事)・・・平泉成
  • 狩谷(能力者の敵対者、最強の敵)・・・吉田栄作

スタッフ

  • 監督・・・小中和哉
  • 製作・・・川城和実、樫野孝人、一志順夫、堀徹
  • プロデューサー・・・小椋悟
  • アソシエイトプロデューサー・・・安斎みき子
  • 脚本・・・伊藤和典
  • 原作・・・筒井康隆
  • 撮影・・・西久保弘一
  • 美術・・・大庭勇人
  • 照明・・・白石宏明
  • 音楽・・・岸利至
  • 編集・・・松木朗
  • ヘアメイク・・・貴島貴也
  • キャスティング・・・おおずさわこ
  • 助監督・・・小原直樹
  • スクリプター・・・松隈理恵
  • スチール・・・佐藤芳夫
「七瀬ふたたび プロローグ」
映画「七瀬ふたたび」の本編前に10分間の短編映画として上映されたのが「七瀬ふたたび プロローグ」です。本編の前日談にあたる話で、筒井康隆の大ファンである中川翔子が初監督を務めました。主演の芦名星の他、1979年にNHKで放送されたドラマ版で七瀬役を演じていた多岐川裕美が七瀬の母親役で登場します。

出演者

  • 火田七瀬(現在)・・・芦名星
  • 七瀬の母・・・多岐川裕美
  • 火田七瀬(少女時代)・・・庵原涼香
  • 火田七瀬(中学時代)・・・高橋胡桃
  • 若い男・・・佐々木崇雄

感想(ネタバレ)

「七瀬ふたたび」は筒井康隆作品の中でも群を抜いてお気に入りの一冊です。「家族八景」も好きですが、超能力を生かして暴れまわる能力者たちの活躍がかっこよく切ないこの物語が一番好きでした。何度も繰り返しドラマ化されてきましたが、どのドラマも原作とはちょっと印象が違っていて、やっぱり原作が一番だなと思っていたのですが、上記の映画化作品は別でした。まず、七瀬役の芦名星が私の七瀬のイメージにぴったりでした。筒井康隆自身ももっとも七瀬っぽいと評価しているだけあって、あのすらっとしたスタイルと長い黒髪とほとんど表情の出ない顔が最高でした!また、ストーリーも原作に忠実で、所々「え?」となるようなCGは合ったものの、原作をきちんと再現している感じがとても好感が持てました。また、原作と大幅に変わっているという前評判でみたラストシーンも素晴らしかったです。原作では超能力者たちを狙う組織と対峙し、七瀬たちは戦うのですが、組織のパワーが強大すぎて皆殺しにされてしまいます。ヘンリーが念動力を使って一矢報いるのですが、それ以外は無残にも幼いノリオさえも殺されてしまい、ついには七瀬もその銃弾に倒れて死んでしまうというストーリーなのです。これを読んだとき、なんて救いのない物語なんだ!悲しすぎる!と怒りすら湧いたものですが、映画ではここの部分が大きく書き換えられています。七瀬が単身組織に乗り込み、ノリオの死を知らされて内に秘めたパワーが爆発し、次々に組織の敵を倒していくのです。しかし生き残っていた組織の人間に藤子が狙われ、それを庇って結局七瀬も死んでしまいます。ですが、ここでは終わらず、藤子は自らのタイムリープの力を使って七瀬と出会った日へ戻り、再び組織と戦う決意をするのです。このシーンには不覚にも涙が出てしまいました。やられっぱなしで終わるのではなく、パラレルワールドから再び闘いに挑もうという強く前向きな意志を感じて、長年感じていたモヤモヤがすっかり晴れたような気持ちになりました。原作のバッドエンドをうまく書き換えてくれた映画スタッフに感謝です。また、「家族八景」からの「七瀬ふたたび」という流れではなく、映画の中で「再び戦う」という意味でのタイトルに繋がるという憎い演出も素敵だなと思いました。原作ファンの中にはこの大幅な書き換えに不満のある方もいるだろうと思いますが、私個人的にはかなり良かったと思います。興行的にはあまり奮わなかったようですし、ちょっとこれは・・・と思うシーンもあるのですが、ストーリーは素晴らしく、主演の芦名星はじめ脇を固めるダンテ・カーヴァーや佐藤江梨子の演技もとても良かったのでたくさんの人に観てほしいなと思っています。「七瀬ふたたび」の映像化作品の中では断トツでおすすめです。